Feature

観光協会がまとめたトリップアイデアや
季節のオススメ情報などをお届けします。

「発酵新幹線・半田便」追体験の旅レポート

旅のレポート

発酵ツーリズム東海フラッグシップツアー

ライター・竹内葉子

最近、こんな言葉を耳にしたことはありませんか?
「半田は発酵のまち」

まだ聞いたことがない人もいるかと思いますが、「いいかも!半田」とか「いい味、かもしだす。半田」という言葉はどうでしょうか?

半田市が10年くらい使っていたキャッチコピーなので、市民の方はわかるでしょうか?
「かもしだす」=「醸し出す」ということで、もともと発酵・醸造の町としての背景を持つ町なのです。

そんな半田市。
今年2025年に開催された「発酵ツーリズム東海」では、半田でも数々の注目イベントが開催され、想像以上に熱く盛り上がりました。

といっても、どれくらい盛り上がったかピンとこない方も多いですよね。

この記事では当日の写真をたっぷりご紹介しながら、みなさんを追体験の旅へとご案内いたします。

申し遅れましたが本日のガイドは、半田市在住の発酵好きライター・竹内葉子が担当させていただきます。

まず「発酵ツーリズム東海」とはどんなイベントだったかというと…
愛知・岐阜・三重で、2025年5月〜7月の2ヶ月間に行われた、“発酵文化”がテーマの観光連動型展覧会&体験プログラム。

「3つの展覧会、50の蔵開き、100のうまみ体験」と銘打って、数多くの見学会、体験会、食事会、マルシェ、ツアーなどが行われました。

主催は発酵デザイナー・小倉ヒラクさんとその周りの有志でしたが、次第にJRや名鉄、セントレアなどの企業も加わり、最終的には122,547名もの総来場者数となり、大盛況だったのです。

なかでも目玉企画は、前代未聞の新幹線貸切ツアー!

東京発の「のぞみ」を1両貸し切るという、豪華なツアーが2本、組まれたんです。

1本目の目的地は岐阜の長良川周辺。
もう1本の目的地に選ばれたのは、なんとここ「半田」!

当日は、これまた前代未聞の「世界SUSHIサミット」なるイベントが半田で開催され、新幹線ツアー参加者だけが入れるというプレミアムな1日が用意されていたのです。

▲こちらが小倉ヒラクさん

え、なんで半田!?って、きっと全国の人も驚いたことでしょう。

実はここ近年の発酵ブームのなかで、全国的にみても半田は発酵の重要なエリアだと認知されたからなのです。
その理由はのちのち探っていきましょう。

さあ、ここからがツアーのスタートです。

集合場所は、東京駅のコンコース。

いざ乗車、とホームへ上がると、そこには舞妓さんや芸妓さんも!
そして半田の酒蔵「敷嶋」の9代目・伊東優さんもお出迎え。

これから一体どんな時間になるのか、想像もつきません〜

さて、席について出発すると、おいしそうな料理やお酒が運ばれてきました。

お料理は、その名も「発酵デパートメント厳選おつまみプレート」
発酵デパートメントというのは、ヒラクさんが東京・下北沢で営む発酵食材のお店とカフェのこと。

発酵デパートメントでも人気の、鮎の白熟クリームを使った「鮎クリームベイクドポテト」や、愛知澤田酒造の酒粕をたっぷり使った鶏ハム、三重の知られざる漬物など、東海三県のうまみが詰まったヒラクさん厳選セットで、もうたまりません。

半田便でのお酒は、敷嶋の人気銘柄2種をテイスティング。
さらに限定ラベル缶がもらえちゃいました。

▲1本目は清涼感のある「夢見草」。愛知県の酒米「夢山水」が使われています

おまちかねの乾杯〜!

その後は、東海や愛知の発酵についてのトークタイム。

▲左は発酵ツーリズム東海と半田市観光協会の事務局長・榊原宏

そして、特別なステージが作られた車内に、三味線の音が響くなか、舞妓さんや芸妓さんの舞を堪能するという、JRとしても初の試みが行われました。

ちなみに半田は江戸時代から発酵と海運で栄え、多くの人が行き交ったため、おもてなし文化や料亭でのお座敷文化が花開いた街でもあります。

当時は芸者さんが多かっただけでなく、三味線の修理店まであったくらい、市内のお座敷はたいそう賑わっていたそうです。

▲発酵と海運で栄えた半田でのお座敷文化に思いを馳せて酔いしれました

また、半田ではかつて三味線が一般男性のたしなみとして浸透するほど文化や教養が高かったという説も、市内のご年配から聞いたことがあります。

この日は、いま日本で数人しかいないという男性の芸者「幇間(ほうかん)」さんも乗車し、すばらしい技を披露してくださいました。

愛知といえば、名古屋城のシャチホコ!

アンコールも、お見事!

たのしいお座敷遊びに舞妓さんのお酌で、お酒も進んでしまいます。

▲2本目は「黒松敷嶋」。2000年まで使われていたラベルを復刻した愛知限定品

ヒラクさんもお酒と共に参加者をおもてなし。

そうこうしているうちに、東京駅から約1時間半、あっという間に名古屋駅へ到着〜!

江戸・明治からの伝統を受け継ぐ鳳川伎連(ほうせんぎれん)のみなさん、ありがとうございました。

名古屋駅からは貸切バスで半田へ移動し、「世界SUSHIサミット」へと参りましょう〜。

世界SUSHIサミットは、国内外の郷土ずしについて、作り手や専門家の話を聞いたり、実際に味わうという、世界初の企画です。

発酵好きなら絶対に参加したい、ディープすぎるイベントで、私もこの日を心待ちにしていました。

バスが止まったのは、半田が誇るお酢メーカー・ミツカングループの本社ビル。

そう、SUSHIといえば酢飯に欠かせないのがお酢。
お酢も発酵食品なのです。

ミツカンは江戸時代、この地でお酢を大量に醸造し、すぐそばの半田運河から江戸へと海運で運んでいました。

そのお酢は「握りすしに合う味わいで、値段も手頃」と評判に。その結果、握りずしが江戸の庶民に大流行!

それまでのおすしは高級だったり長期間の発酵が必要なものでしたが、ミツカンのお酢をきっかけに、誰もが気軽に食べられるようになったんです。

その後、握りずしは全国へ広がっていきました。
そして今や世界中にも広がっていますよね。

▲会場に入れるのは、新幹線ツアーの参加者限定

というわけで、すしの歴史的転換点を作ったミツカン。
「世界SUSHIサミット」の会場として、これ以上ふさわしい場所はないんじゃないでしょうか?

▲あ、筆者の姿も写っていました

さあ、いよいよ始まります。

まず開会宣言に登場したのは、久世孝宏 半田市長。
というのも、この「世界SUSHIサミット」を主催したのは半田市なんです。
市をあげてこのようなイベントを開催するくらい、半田は発酵のまちなんだなあ、と改めて感じました。

続いて、ミツカンのお酢博士・赤野裕文さんが登壇。
半田とすしの繋がりについて、解説してくださいました。

▲赤野さんが手にしているのは江戸時代から作っているお酢「山吹」

お次は郷土ずし研究家の日比野光敏さんが登壇。
日比野さんは、日本中の郷土ずしを訪ねて、その様子をミツカンのWEBサイトに連載しているお方でもあります。

その「新日本すし紀行」はマストチェック!
https://www.mizkan.co.jp/sushilab/kataru/kikou/

ここからは、日本&世界の郷土ずしの作り手が登場し、パネルディスカッション。

▲てこねずし(志摩)/お食事処秀ちゃん 代表 大口秀和さん

 

▲フナのなれずし(滋賀)/丘峰喫茶店・能美舎 代表 堀江昌史さん

 

▲かぶらずし(金沢)/四十萬谷本舗 専務取締役 四十万谷正和さん

 

▲箱ずし(半田)/写真はあさりオンリー版で亀崎地区の幻の存在

この箱すしの作り手は、成岩第三区 コミュニティ推進協議会 健康福祉部会 サンクテーブルのみなさんだったのですが、都合により参加が叶わず、半田市民でもある赤野さんがたっぷり解説してくれました。

ここからは海外の作り手さんのお話がはじまります。

みなさん、おすしのルーツってご存知ですか?
実はおすしって、東南アジアで生まれたそうなんです。

どんなおすしだったのか、その一例を知ることができました。

▲バズンチン(ミャンマー)/ミャンマー料理研究家 鈴木ラペ子さん

 

▲ソムパー、ソムムー(ラオス)/ラオス料理タマサート 小松聖児さん

 

それぞれのおすしは、どんな食材を使って、どういう手順で、どれくらい発酵させているのか、また、おすしはどんな変遷で日本に伝わり、発展してきたのか……
そんな興味深いトークの数々が繰り広げられ、参加者の頭は情報でいっぱい、お腹はぺこぺこに!

部屋を移動して、待ちに待ったテイスティング。いただきます!

この日は、江戸で握りすしが生まれる前の、各地のおすしたちが登場しました。

てこねずし(志摩)

志摩では漁師さんが船の上で、釣った魚の醤油漬けと酢飯を手で混ぜて食べていたそうです。

江戸の中期に生まれたスタイルで、”ほぐすタイプの早ずし”と言われています。
早ずしについてはこちらをご参照ください)

②箱すし
半田を代表する郷土すしで、このエリアの特徴は、具材を斜めに配置すること、カラフルなこと。
お祭りの日などに食べたり、お客様のお土産にしたり、と馴染み深いものでした。

江戸で、早ずしが発祥する前は、箱すしをカットしたものが屋台で売られていたそうです。

でも箱すしは、具材の仕込みに時間がかかり、箱に詰めてからも半日以上かかるもの。
一方、早ずしや握りずしは、酢飯に魚をのせるだけ。
早ずしは、カットした箱ずし(上の写真)が元になっていると言われていて、1つのサイズが、現代の握りずしの2倍以上ありました。

忙しくせっかちな江戸っ子に、パッと作れてサッと口に入れられる握りずしが流行ったのは、想像がつきますね。

③かぶらずし(金沢)

薄切りにしたカブ(かぶら)に、ブリやサケなどを挟み、魚介類と麹を混ぜたご飯で漬け込まれています。
金沢では年末年始に食べる料理で、冬の贈答品にもなっているのだとか。

ジャンルとしては「飯ずし(いずし)」と呼ばれています。
飯ずしとは、魚と野菜を米麹に漬けて、乳酸発酵させたもの。
漬け込む期間は10日から2週間ほどなので、時間のかかるご馳走です。

④フナのなれずし(滋賀)

「熟れずし(なれずし)」とは、飯ずしができる前のおすしで、塩漬けした魚と米を漬け込み乳酸発酵させたもの。
日本の古来のおすしとか、日本のすしの原型、と称されています。

独特の匂いに苦手意識のある方もいると思いますが、この日に食べたものはそれを全く感じず、旨みの塊のようでした。

漬け込む時間は、数ヶ月〜1年とも、数年とも。

さあここからは、なれずしのルーツといわれる、東南アジアのおすし文化をさかのぼりましょう。

⑤エビのなれずし「バズンチン」(ミャンマー)

海老・塩・麹などを混ぜて発酵させたもの。
日本のかまぼこのような存在で、炒め物やスープ、サラダなどに使って親しまれているのだそうです。
大まかに言うと、旨みのパンチがある魚肉ソーセージのように感じました。
酸味があるので暑い日には恋しくなりそうです。

こちらは、数日から1週間ほど発酵させるとのこと。

ところでみなさん、おすしって魚介類を使うものだと思っていますよね。
でもミャンマーには、魚だけでなく、お肉の(!?)なれずしもあるんだそうです。

一体どういうものなんでしょう?
すしの概念がくつがえる「世界SUSHIサミット」。
ヒラクさん曰く、すしのゲシュタルト崩壊へと誘われていきますよ〜

⑥豚肉のなれずし「ソムムー」(ラオス)

ミャンマーのお隣ラオスで食べられているのがこちら、豚肉のなれずし。
食べてみると、ソーセージやサラミのような深い旨みに、箸がとまりません。

作り方を聞くと、生のお肉を使っているという点に、また驚かされました。

まず、生の豚ひき肉や細切り肉を、豚の皮か豚脂、ニンニク、唐辛子、塩、もち米などとミックス。
それをバナナの葉などで包んで発酵させるのだそうです。
発酵期間は、数日間。

⑦魚のなれずし「ソムパー」(ラオス)

ラオスには、もちろん魚のなれずしもあります。

こちらは、基本的に生の淡水魚に、もち米、塩、ニンニク、唐辛子などを合わせて発酵させたもの。

発酵期間は、数日間〜数週間です。

日本と同じく稲作と漁業が盛んな東南アジア。
魚を米と発酵させ、長持ちさせつつ美味しく食べる文化が生まれたと言われています。

おすしをめぐる味の旅、楽しんでいただけましたでしょうか?

ツアーはここで一旦お開きとなりましたが、この日、ご希望の方にはミツカンミュージアムの見学や、企画展『すしの千年を巡る旅』へご案内するプランもありました。

企画展は終了していますが、ミツカンミュージアムは、予約すれば常時入ることができ、お酢と発酵のことから、おすしのことまで楽しく学べる施設です。
まだの方はぜひご体験ください。

ツアー当時は特別に、ヒラクさんによるミュージアムトークも用意されていて、濃厚なすしまみれの1日でした。

おすしをめぐる歴史の旅が終わったところで、記念撮影。

半田にお越しいただいたみなさん、ありがとうございました!

ここ半田は、お酢だけでなくさまざまな発酵文化が体験できます。

たとえば、日本酒、味噌、醤油、ビール。

お酢を入れると5種類が揃うという、国内でも珍しいエリア。

知多半島はもともと200を超える酒蔵があり、現在も7つの酒蔵が健在です。
その発酵技術が、お酢や、味噌、醤油、ビールへと受け継がれていったのです。

半田から足を伸ばせば、隣接する市町村にも発酵醸造蔵があり、特に碧南市では、みりんと白醤油の発酵文化も体験できちゃいます。

発酵醸造の蔵が集積してめぐりやすいエリアとしても注目されているので、発酵好きな方や、食文化に興味のある方の旅先として、うってつけ。

名古屋駅はもちろん、中部国際空港セントレアも利用しやすい場所にあるので、ぜひみなさんのお越しをお待ちしております!